御礼
2008年2月3日,雪の降る寒い日に”ベーカリー アンリエット”は、心細い船出をしました。その後ご縁を頂いた多くのお客様からの励ましと温かいお言葉を受けながら,今日までパンを焼き続けることができていることに感謝します。パン屋を始める前は,二つの会社(鉄鋼メーカーと化学メーカー)にお世話になりました。第3の人生として趣味で焼いていたパン作りを定年のない本業として選びベーカリーを開業したのですが、経営が安定してくるとパン作りの世界で解らないこと、困ったこと、新しい機能をもったパンを作りたいなど研究開発の虫が再び騒ぎ始め、そちらの道も”二足の草鞋”として歩み始めました。
最初は筑波大学付属病院及び城西大学薬学部のご指導を受けながら、「マイルド低糖質パン」の商品化に取り組みました。次に健康機能性に優れた水溶性食物繊維の一つ,βーグルカンの豊富な大麦を使ったパンを商品化したいとの思いで試作を始めたのですが、これが難題でした。どうして膨らまないのか?その原因は?,どうすればよいのか?まったく五里霧中の世界でした。ひとつ一つ原因を探り、改善方法の検討を始め足掛け8年になりました。ここで得られた研究成果は人生残り少ない私にとって隠すものではなく、むしろ必要な方がいれば利用してもらえればよい,いや利用して大麦パンを広く家庭の食卓に広めてほしいという気持ちで研究を進め、日本食品科学工学会の会誌へ技術論文として投稿してきました。
ところが思いもよらず、日本食品科学工学会誌の論文賞に選ばれ、先週8月27日に表彰されました。最初に受賞内定の連絡メールを受け取った際には、何かの間違いではないかと驚き、その後には迷いや孤独を感じながらの研究の真似事はもう止めようと思う気持ちよりも最後までやり遂げたいという気持ちが勝る自分を,どこかから見てくれている方がいらっしゃるという安堵感から涙が出てきました。現在も第3報の執筆に向けて研究を続けており、100%小麦粉パンと同じ価格レベルで膨化性に優れた30%もち大麦パンを完成させたいという目標は達成できましたが、その作用機序についての考察が不十分なため大学や研究機関の先生方々から助言を頂きながら,「どうして良くなるのか?」の理解を一歩でも深めていくことができればとの想いで取り組んでいます。
アンリエットのお客様にはこの8年間、失敗作のパンも笑顔で受け取って頂き温かい励ましの言葉を頂き続けたことに改めて感謝を致します。また今回の論文賞受賞は、「これからも頑張れ」という選考委員の先生方の励ましのメッセージとして受け止め、本研究テーマを最後までやり遂げたいと思います。ありがとうございました。